・感想ー著者独特の解釈や“読み”が、もっと見たかった。
歎異抄をわかりやすい現代の言葉で読み砕く試み。内容的には歎異抄全18章を、高橋さん流の文章で読み砕き、わかりやすくまとめています。ただ、少し原文に忠実すぎて、もう少し文学的な、高橋さん独特の解釈をページを割いて読みたかったなと思います。多読や他ジャンルをよく読み込まれている方なので、そういう方なりの含蓄に富んだ、解釈がもっと見たかったかも。逐語訳的なところと、独自の解釈を入れるところの二つくらいのパートくらいあると、もっと読み応えがあったかもしれない。
そのためもし可能なら、これから読む方には、一度購入する前に図書館などで読んでみることを勧めます。「歎異抄の入門」という体ならばいいかもしれないけど、自分は歎異抄に対してはある程度知識があり、一部を暗記もしている。弥陀の救いに関して教行信証や一多証文のほか、覚如や蓮如の書物も読んでいる人なので、そういう人には物足りない。
いちおう巻末に歎異抄の原文も載っているけれど、もっとつっこんだ解釈とか自分の人生に置き換えた読み、あるいは太宰的な解釈ではどう読めてくるのかとかがないと、単なる入門書に終始する。じゃあ入門書なのかというと、題にそういう記載があるわけでもない。『一億三千万人のための~』という題からは、一般の人・読書嫌いの人にも勧めようという内容のようにも見えるけど、副題や推薦者の文言にそういう記述が欲しかった。高橋さん独特の“読み”みたいなものがあるのかと思って期待して読んだので、そういうのがあまりなくてがっかりだった。
親鸞を「シンラン」、法然を「ホウネン」、阿弥陀仏を「アミダ」、としている。理由はそれぞれの読み方に沿って読むから、その人その人の「シンラン」、「アミダ」があるということでそういう読み方をしているようだけど、なんというかありきたりかな。そういうところにページを使うなら、もっと独特な、高橋さん的な、太宰的な読み込みをしてほしかったなあと思う。
今まで誰も読んだことがない、みずみずしい「ぼくたちのことば」になった『歎異抄』。それは親鸞の『君たちはどう生きるか』だった
漢字をできるだけ使わず、平易な言葉で歎異抄を身近なものにしようとしているのかな。アニメファンや最近の時事にひきつけつつ、歎異抄を紹介していることが窺える。
太宰については、歎異抄の有名な文章、親鸞の自督(自分の信心)を述べた「(弥陀の五劫思惟の願をよくよく案ずれば、)ひとえに親鸞一人がためなりけり」のところを引用してあった。そして太宰の愛好家はよく「彼の作品を読んでいると、まるで私のために書かれた作品のような気がしてくるんです」という風に評する。その言葉を参考にして、歎異抄の親鸞との類似性を述べていて、そこのところはおもしろかった。なのでそういう読みをもっと広げて、太宰的に読む高橋さん流の私訳歎異抄みたいにしてもらえると、嬉しかった。それくらい独自の解釈の紙幅が欲しかった。そういうのを期待しながら読んだので、けっこう原文に忠実にというかおとなしく訳してあるなという感じで肩透かしという感じだった。それなら他の歎異抄解説本でいいじゃんと。
少し長く書きすぎたようだ。ほんとうは「親鸞」が書いた『歎異抄』の、ぼくの「翻訳」を読んでもらうだけで、他にはなにも、どんな解説もいらないのかもしれない。読者のみなさんがぼくの「解釈」を押しつけられているように感じてしまったなら、申し訳ないと思う。
もともと歎異抄を自分なりの解釈で翻訳したものを開陳する。そこに終始する本だったのを、じゃっかんの解説を付記して出した本という位置づけのようだ。
新書で学術文庫並の解説を求めることがお門違いなのかもしれないが、でももう少し突っ込んだ、そこそこ真宗や歎異抄に興味のある層にも、届くようななにかを提示してほしかったなあと思う。そのためには在俗の文学者の独特の“読み”が欲しかったというのが正直なところだ。
・総評:59点(100点満点中)
Amazonでは☆4.1くらいだけど、ある程度真宗を勉強している人には、逐語訳的でおもしろみがないし、独特の解釈の紙幅も少ないので、図書館で一読すればいいかなという内容かな。読者対象は中高生とか、あまり読書習慣のない人向けかなと思う。そういう人に対しては、親鸞思想に入門する、ある程度のよすがにはなると思う。